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ミッドライフ・クライシスとは。中年の危機の乗り越え方を解説します

こんにちは、大鈴佳花(おおすず・よしか)です。

疲れが取れるのが遅くなり、体力も衰えてきたと感じる。新しいことを始めるのが億劫になってきたし、生きる意欲もわかない。

最近、「私の人生はこれでよかったのかな」と考える…

がんばってきたのに、このような思いにふととらわれることが増えてきたなら、それは「ミッドライフ・クライシス」と呼ばれる状態なのかもしれません。

この記事では、ミッドライフ・クライシスとは何か、そしてその乗り越え方についてお伝えします。

ミッドライフ・クライシスとは

「ミッドライフ・クライシス」とは、およそ40代から50代の「中年期」に起こりやすい心理的な危機のことです。

「ミドルエイジ・クライシス」または「中年の危機」と呼ばれることもあります。

中年期には人生の大きな変化がいくつも訪れます。

人によっては、それまでのアイデンティティではもう自分を支えられなくなることがあるのです。

このため、ミッドライフ・クライシスは、「アイデンティティの危機」であると考えられています。

(参考:林洋一・監修「最新図解 よくわかる発達心理学」(ナツメ社・2022年)P20)

(参考:無藤隆、岡本祐子、大坪治彦・編集「よくわかる発達心理学」(ミネルヴァ書房・2004年)P143)

アイデンティティとは

「アイデンティティが危機におちいる」とはどういうことでしょうか?

れを理解するために、まず、アイデンティティとは何かを説明しますね。

アイデンティティとは、アメリカの精神分析学者、エリク・H・エリクソン(1902-1994)が提唱した概念です。

エリクソン氏は、人の一生における心の発達を8つの段階に分けた「ライフサイクル論」を提示しました。

ここでいう発達とは「変化」のことです。

エリクソン氏は、ライフサイクルの各段階には重要な課題があるとしました。そして、青年期の重要な課題を「アイデンティティの確立」だとしています。

アイデンティティとは簡単にいうと「私は何者なのか」という問いに対する答えです。それは「私は(他の誰とも違う)私だ」という確信に近い感覚だとされています。

また、時間の流れの中でもその感覚は変わらないとされています。

「今までも、そしてこれからも、私は変わらず私のままだ」という
感覚が持てている状態のことを言います。

青年期には、友人関係や学校の成績、進路や自分の容姿についてなど、様々な悩みを通じて自分について考え、アイデンティティを確立していきます。

(参考:濵本潤毅「エリク・H・エリクソンの初期思想における子どもの身体と発達ー遊びと「コンフィギュレーション」の児童分析に着目してー」)

(参考:宇都宮京子、西澤晃彦・編集「よくわかる社会学[第3版]」(ミネルヴァ書房・2020年)P37)

(参考:小松貴弘、渡辺亘、中村博文・編著「時間のかかる営みを、時間をかけて学ぶための心理療法入門」(創元社・2019年)第3章)

(参考:林洋一・監修「最新図解 よくわかる発達心理学」(ナツメ社・2022年)P16、164、165)

ミッドライフ・クライシスが起こるきっかけ

人生において、中年期までは、時間や努力とともにできるようになることの方が多い、いわば人生の「上り坂」です。

もちろん人により異なりますが、仕事や家庭などの様々な分野で実績や人間関係の構築などを積み重ねてきた結果、中年期には、仕事もプライベートも充実した状態を享受している人も多いかもしれません。

一方で、中年期には、それまでのアイデンティティを揺るがすような大きな出来事が次々と起こることがあります。

ミッドライフ・クライシスのきっかけとなりうる中年期の出来事には、以下の要素があげられています。

  • 体の変化
  • 仕事での変化
  • 家庭環境の変化
  • 「死」を意識する

体の変化

中年期になると、それまでのように体に無理がきかなくなってきますね。

たとえばあなたも、体力の低下を感じたり、小さな字が見えにくくなったりしていませんか?

スポーツをしている人は、タイムが伸びにくくなり始めるのもこのころではないでしょうか?

人によっては病を得る場合もあるかもしれません。


(参考:無藤隆、岡本祐子、大坪治彦・編集「よくわかる発達心理学」(ミネルヴァ書房・2004年)P142)

仕事での変化

中年期には、仕事の場で部下を持つようになる人もいるでしょう。そのことで、上司との板挟みになってストレスを感じる場面もあるかもしれません。

また、それまでひたすらがんばってきた人も、中年期には体力や気力が低下してくることで、出世や自分の能力に限界を感じ、挫折感を味わう人もいます。

加えて近年は、社会の動きが激しいために先の予測が難しく、従来にはなかった対応を迫られることも増えていますね。

つまり、仕事上でもこれまでのやり方では通用しなくなってきているのです。

そんな中、これまでは自分のキャリアを追い求めていたのが、次の世代にバトンを渡すことを考えるようになるのもこの時期です。

つまり、仕事における視点が大きく変わる時期なんですね。


(参考:無藤隆、岡本祐子、大坪治彦・編集「よくわかる発達心理学」(ミネルヴァ書房・2004年)P142、143)

(参考:林洋一・監修「最新図解 よくわかる発達心理学」(ナツメ社・2022年)P210)

家庭環境の変化

子どもがいる場合、親の中年期は、子どもの思春期や青年期にあたります。
この時期はちょうど、子どもは親から自立しようとします。

そのため親子間で心理的な距離が広がることもあります。また、子どもが家を出て下宿するなど、物理的な距離ができることもあります。

それまで子育てに全力で向き合ってきた人の場合、子どもが「巣立ち」親としての役割がなくなってしまったと感じて、空虚感や無力感などにさいなまれることがあります。

この状態を「空の巣症候群」と呼んでいます。

夫婦が育児という目的だけで結びついていて、伴侶として心理的に親密な関係を築いてこなかった場合は、子どもが育った後は改めて配偶者と向き合う必要性が出てきますね。

また、この時期に親の介護をするようになる人も少なくないでしょう。


(参考:白井利明・編集「よくわかる青年心理学[第2版](ミネルヴァ書房・2015年)P179)

(参考:林洋一・監修「最新図解 よくわかる発達心理学」(ナツメ社・2022年)P142、208、212)

「死」を意識する

若いころは、自分の前に無限の時間が横たわっているような気がするものですね。自分が死ぬことなど、あまり考えないものです。

でも中年期になると、同世代の友人や身近な人などの訃報に接することも増えてきます。

そのため、死の存在を意識するようになります。また、自らの体力の低下や親の介護を通じて、「自分の人生に残された時間」をより強く意識するようにもなってくるでしょう。


(参考:林洋一・監修「最新図解 よくわかる発達心理学」(ナツメ社・2022年)P208、226)

ミッドライフ・クライシスは「アイデンティティ再構築」の合図

中年期までの発達は、新しい能力の獲得を中心とするポジティブな方向の発達が多かったでしょう。

しかし、中年期に起こるこれらの変化は、衰退する方向や、心理的に負担になるような変化が多くなります。

中年期には、このような変化が人生のさまざまな領域に同時に起こることもあります。つまり、いろいろなことについて「これまでのやり方」が通用しなくなってしまう。

このため人によっては中年期に「私の人生はこれで良かったのか?」と、それまでのアイデンティティを根底から問い直すほどの大きな心理的危機を経験することがあります。

ただし、ここで言う「危機」は「分かれ目」「岐路」という意味です。このため、中年期は、アイデンティティを再構築するための「転換期」だとされているのです。

いま、ミッドライフ・クライシスの真っただ中の人は、このポイントを忘れないようにしましょう。

(参考:林洋一・監修「最新図解 よくわかる発達心理学」(ナツメ社・2022年)P8)

(参考:無藤隆、岡本祐子、大坪治彦・編集「よくわかる発達心理学」(ミネルヴァ書房・2004年)P142、143)

ミッドライフ・クライシスの乗り越え方

ミッドライフ・クライシスの渦中にいると、終わりが見えないような不安な気持ちが募るかもしれません。でも安心してください。

ミッドライフ・クライシスを乗り越えるには、アイデンティティを再構築すればいいんですよ。

それにはこれまでのあなたの人生を振り返り、その上で「これからの納得できる生き方」を定めていきましょうね。


(参考:林洋一・監修「最新図解 よくわかる発達心理学」(ナツメ社・2022年)P209)

「これまでの人生」を振り返る

これまでの人生を振り返って、「自分」を分析してみましょう。

あなたにはこれまで、一生懸命やってきたことがありますよね。それは何でしょうか?

自分ではたいしたことがないと思うようなことでも、それはあなたの人生の一部です。よく感じてみましょう。

また、あなたには大切にしてきた価値観があると思います。それは何でしょうか?それらから何が得られましたか?

さらにどんなことをしていたときに「私を生きている!」と実感できましたか?きっとこれまでの人生を振り返ると、生きている実感を感じていた場面がたくさんあると思います。

そしてむかし描いた夢のうち、叶えたものは何ですか?また、まだ叶えていないものはどれでしょうか?

最後に、これまでの人生で抑圧してきた「本当にやりたいこと」はありますか?

これらの問いについて丁寧に分析してみてください。

きっと「これまでの自分があったからこそ、いまの自分があるのだ」と納得できるようになるでしょう。


(参考:林洋一・監修「最新図解 よくわかる発達心理学」(ナツメ社・2022年)P209)

(参考:無藤隆、岡本祐子、大坪治彦・編集「よくわかる発達心理学」(ミネルヴァ書房・2004年)P143図16)

(参考:岡本祐子「中年のアイデンティティ危機をキャリア発達に生かすー個としての自分・かかわりの中での自分ー」)

軌道修正をする

中年期のあなたは、自分の残りの人生の時間について感じることもあると思います。

そこで「私の人生の時間には限りがある」ということを踏まえた上で、将来に向けて人生の軌道修正をしていきましょう。

具体的には以下のようなことを考えます。

これまで一生懸命やってきたことや大切にしてきた価値観などは、これからの自分にとっても価値があるでしょうか?

まだ叶えてない夢は、いまも変わらず叶えたいですか?

叶えたい夢や本当にやりたいことを、現在の生活の中に組み込むとすれば、どのような形があるでしょうか?

周りの人たちの関係性は、どのように変えると良いでしょうか?

自分のあり方を主体的に見つめ直し、納得できる生き方を再構築することは、人生に対する「調整力」を持つことです。

人生に対する調整力を持つことで、この先もさらなる良い変化を起こしていけますよ。心配いりません。


(参考:林洋一・監修「最新図解 よくわかる発達心理学」(ナツメ社・2022年)P209)

(参考:無藤隆、岡本祐子、大坪治彦・編集「よくわかる発達心理学」(ミネルヴァ書房・2004年)P143図16)

(参考:岡本祐子「中年のアイデンティティ危機をキャリア発達に生かすー個としての自分・かかわりの中での自分ー」)

ミッドライフ・クライシスは、新しい人生への入り口

ミッドライフ・クライシスは、中年期に訪れるアイデンティティの危機のことで、「あなたのアイデンティティは、すでに新しくなっていますよ!」というお知らせです。

つまりそれは「新しい人生への入り口」です。

あなたはいままでの役割を、精一杯頑張ってきましたね。そしてあなたはいま、一つの段階を終え、生まれ変わろうとしています。

ここからの人生、あなたが本当にやりたいと思っていたことを叶えていってくださいね。

あなたの輝く未来が叶いますように、私はいつも応援しています。

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